認知症と薬①

「アルツハイマー征服」(下山進著 角川書店)という本を読みました。アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症と診断されると、たいていの場合処方される「アリセプト」という薬が出来るまでの関係者の苦闘や、これからのアルツハイマー型認知症薬の開発について、ノンフィクションで描かれています。読んでみて、開発に携わる方々のご苦労には本当に頭が下がる思いでいっぱいになるのと同時に、「どうして?」という疑問符が頭をいっぱいにしました。

なぜかというと、一つの薬が出回るまでには、厳しい「治験」を何度もクリアしなければならないのですが、それをクリアしたアリセプトを処方されて、本人や介護する家族が「アリセプトを飲んで良かった~」という瞬間を一度も見た事が無いからです。僕自身も介護職としてそう感じた事は無く、それどころか興奮や暴言暴力などの症状が増幅される場合も多々あります。

萩の里では、興奮などの症状がある場合、まずアリセプトを疑う事が多いです。そして、主治医に相談して減量または処方を止めていただくようにお願いします。その時、「こんな良い薬を飲んでいるんだから止めたらもったいない!興奮や暴力は認知症の症状なのだから仕方ない!それは治りません」と言うお医者さんが稀にいますが、そんなお医者さんは信用出来ないので、家族と相談して主治医を変更する事もあります。

アリセプトを減量または処方中止する事で症状が緩和される方は、僕の感覚で50%位でしょうか。もちろん、アリセプト以外にも興奮などの原因になる薬はたくさんあるし、薬以外が原因の場合もあるので、アリセプトばかりを悪者にするつもりはありません。でも、介護現場で働く方なら、似たような思いがあるのではないでしょうか。

どうして治験をクリアした薬が効かないどころか症状を悪化させるのでしょうか。たまたま僕がアリセプトで改善した方と出会っていないのか。もしかしたら、認知症の原因疾患の正確な診断は難しいので、アルツハイマーやレビー小体型認知症ではないけれど、処方されてしまっているのか。僕には分かりません。

アリセプトを開発したのは、エーザイさんという超難関な認知症の薬を世界相手に開発している日本企業です。現在、アリセプトとは違う作用をする認知症の薬を開発しているそうで、なんとか成功させていただきたいですね。僕は昔エーザイの織茂さんという方にとてもお世話になった事もあり、成功を願わずにはいられません。

アリセプト以外にも、脳に働く薬は使い方を間違えると、認知症の症状が悪化したり、興奮や過鎮静を引き起こします。それについての経験も、そのうち書いてみようかなと思っています。